村田真(美術ジャーナリスト) 

かれこれ4半世紀ほど美術について節操なく書いてきたけれど、ブールデルについて書いたことはいちどもないし、興味をもったこともないですねえ。その意味でブールデルはぼくにとって「珍しい」存在かもしれない。
ただ、ひとつだけ思い出すことがある。それは、1987年に栃木県立美術館でおこなわれた「アートドキュメント87」という公募展でのできごと。この公募展、インスタレーションやビデオ、パフォーマンスといった美術館になじみにくい表現メディアを対象に作品プランを募り、入選者に館内外で実現させるという当時としては画期的な試みだった。カタログをひっくり返してみると、デビューまもない国安孝昌や藤浩志や柳幸典らが大作を出品していて、それなりに感慨深いものがあるのだが、そのなかに、常設展示の彫刻に花の輪をかけるという微笑ましい作品があった。作者は地元の若い女性作家、合田容子。美術館所蔵の重厚な彫刻に、素人同然の女の子が愛をこめて花を添えるという、そのささやかな、かつ大胆な発想と行為にいたく感銘を受けた覚えがある。あの彫刻が、たしかブールデルの「ペネロペ」ではなかったっけ。
つまりブールデルとは、そういう存在なのだ。